ライン川がスイスとオーストリアとの国境になっています。1983年6月23日(木)、橋を渡ってスイスに入国しました。
1SFr.(スイスフラン)=約116円。
このレートは35年以上たった今も変わりありません。この間、バブル崩壊やスイスフラン暴落などありましたが、落ち着くところに落ち着いたということでしょうか。
自転車に問題を抱える私は、スイス一周の前に行きたいところがありました。82年夏、アメリカのイエローストーン国立公園で出会ったスイス人サイクリストのウィルフレッドが教えてくれた自転車屋です。実は、キャリアに二度目のトラブルを抱えていたのです。
ハブとキャリア固定部の破損が起きたのはイギリスでした。その時はフレーム工房の青年ダンがタダで溶接修理をしてくれました。今回は、その修理部分の少し上のパイプ自体にヒビが入ったのです。溶接の熱入れでパイプの強度が落ちたのかもしれません。
ウィーンを出発してからその異変に気がつきましたが、何とかスイスまでだましだまし走ってきたのです。そのキャリアの修理の相談をするつもりです。他にも折れたトウクリップの代わりと新しい予備タイヤも入手するつもりでいます。
まさか、ウィルフレッドがくれた自転車屋のアドレスが役に立つとは思ってもいませんでした。
メモ書きには Heizmann(ハイツマン)という自転車店名のほかに住所と電話番号がありました。メモを見ながら、当時のやり取りを思い出していました。
「これが自転車屋の住所だ。困ったことがあったら、ここで相談したらいいよ」
「サンキュー。えッ、これだけでわかるの?」
「Rikon(リーコン)が町の名前。8486が郵便番号、これで場所がわかるよ」
「州の名前とか要らないの?」
「州? Zurich(チューリッヒ)州だけど、スイスじゃ郵便番号だけでわかるから問題ないさ」
「オーケー、何かあったら訪ねてみるよ」
さっそく地図を入手。表紙にはドイツ語、フランス語、イタリア語のほかに英語とオランダ語の5ヵ国語でスイス地図とあります。広げてみると、畳3分の2ほどの大きさに細かい地名、かなり詳細な地図に驚きです。多言語国家、観光立国でもあるスイスならでは、という気がしました。
チューリッヒ近くということだけで、地図上でリーコンの町を探すのは無理があるようです。通りがかりの人に尋ねてみましたが、ダメでした。
ならばと、郵便局か警察署を探すことに。最初に目に入ったのは郵便局、事情を説明すると親切に対応してくれ、すぐに場所を特定できました。リーコンはチューリッヒの手前20キロに位置しています。
このまま北へ進めばライン川が流れ込むボーデン湖ですが、リーコンに行くにはちょっと遠回りになります。途中に小さな峠がありますが、私は進路を西へ、最短距離でリーコンをめざすことにしました。
急な上りを押し上げ、町から標高差500m弱、932mの峠へ。そしてダラダラ下りの途中から、たった一両で走る電車と並走となりました。線路脇には放牧された牛の姿も見られます。
国境から西へ、スイス初日の走行距離は80キロほど。リーコンの町まであと10数キロと迫っていますが、急ぐことはないでしょう。この日は畑の片隅でテント泊。