ぐるっとヨーロッパ: Norway(15) ネパールからオスロに届いた手紙

Ｗ君からの手紙の消印は６月20日とありました。順調なら少なくとも二ヵ月前には大使館へ届いていたはずです。なぜ私が初めて大使館を訪ねたときに受け取れなかったのでしょうか。逆に早く着きすぎて保管されてしまったのか……　わかりません。

手紙の中身が気になります。［あいつ、どうしてた、元気でやってのか?］早速、大使館近くの公園で手紙を開封してみました。紹介させてもらいます。

手紙の書き初めは６月９日から、便箋５枚にわたって日々の出来事が日記のように書かれていました。彼のいる場所は首都カトマンズの西に位置するチトワンという町だとあります。場所的にはヒマラヤの高峰マナスルの南、インドに比較的近いところです。そこのジャパン・デモンストレーション・ファームで現地ネパール人と一緒に百姓仕事や大工仕事を手伝っているとありました。［うんうん。聞いてた通りだ。いいんじゃないの］

現地の素朴で質素な暮らしぶりが気に入ったとあります。日中はかなりの高温になるらしいのですが現地の人は皆裸足で生活しているそうです。彼らの真似をして裸足で歩いたもののとても地面が熱くて歩くことができずに周囲から笑われたとあります。ゴム草履のイラスト付きで説明が続いています。なんでもゴム草履が10Rs(ネパール・ルピー)するとかで、彼によると農場で働くネパール人の日給が12Rs(約220円)とありますからゴム草履自体がかなり高額のようです。

［そういえばＷ君は自転車に乗るとき以外いつも肩から民芸品風のサコッシュ、頭にはバンダナ、そしてゴム草履で歩き回っていたなぁ］手紙を読みながら急に彼の姿を思い出しました。

雨季に入りトレッキングにも行けず、ヒマラヤを見に来たのに見ずに帰りそうだとか……　近くのワニのいる川で泳いだとか……etc.　何はともあれ元気そうです。

近隣の村から手紙を出すと着かないとかで、カトマンズから出すとあります。そのカトマンズへは18日に行く予定のようです。［Ｗ君、心配ないよ。少々遅くなったけど君の手紙はちゃんと受け取ったよ。届かないのは日本からの手紙だよ］と思わず突っ込みました。

17日付けの最後５枚目の便箋には、便所の穴掘りをしたとあります。長い柄のスコップを二つ重ね……　これまたイラスト付きです。ホームセンターで見かけるダブルスコップとか複式シャベルと呼ばれる穴掘り用の作業道具のことのようです。
本来、支柱や丸太を埋め込むために使うのですが、それを便所の穴掘り用に使っているのです。彼いわく「自然浄化式」とかで穴が一杯になったら他の場所に新たな穴を掘るそうです。

一応周囲を塀で囲み、入り口だけカーテンが下げられているとあります。「現地の人は塀に向かって座るけど自分はカーテンに向かって座って用を足す、広い視野の方がやり易い、自転車旅行による野糞の習慣からだと思います」と結んでありました。［最後に野糞の話かよ。でも、何となくわかるなぁ］　私もＷ君の言葉に妙に納得していました。

これは手紙と一緒に同封されていたネパールの絵ハガキです。「祈りのための準備」と説明があります。神事かお祭か、何らかの儀式のようにも思えますが詳しいことはわかりません。写真の女性をよく見るとＷ君がいうように裸足なのが確認できます。

私と一緒にリスボンから北アフリカへ、そしてアテネへと３ヶ月間自転車旅を続けたＷ君ですがネパール経由で無事帰国しました。その後、国内の農場や諸々施設で技術を重ねる中で出会った女性と結婚して、今ではいいお父さんになってます。いや、彼は私より10歳ほど年下ですからもういい年のオッさんですね。