案内されたロッジのテーブルの上にはお皿の上いっぱいにおにぎりが盛られていました。ラジカセからは演歌が流れています。
「演歌ですか?」
「外国で聞く演歌もいいでしょう?」
「ええ、何だかなつかしいです」
「おにぎりは日本のお米で握ったんですよ。どうぞ」
「早速いただきます。日本のお米は久しぶりです。チュニスで日本大使館の人の自宅に招待されたんですが、その時以来です。たぶん4-5ヵ月ぶりです」
「何をご馳走になったんですか?」
「天ぷらがメインの日本食のフルコースでした。あと、お酒とカラオケも」
「すごーいッ」
「その頃、もう一人仲間がいて二人で歓待されました。うん、美味い!! やっぱ日本の米がいいなぁ。奥さん、おにぎり美味いです」
「そう、よかった」
三人は私のちょっと上の世代でしょうか。遅めの夏休みを過ごしているようです。レンタカーでヨーロッパを移動しているとのことでした。今度は旦那さんが、
「オスロにもう長くいるって、聞いたけど?」
「受付の彼が話したみたいですね」
「私たちが日本人だとわかると、すぐあなたのことを話してくれたよ」
「実は友人からの手紙を待ってたんです。いやぁ、物価は高いし長くいたくないんですけど、もう2週間ぐらいになります。でも1週間ほどはオスロ近郊を走ってました」
「確かにノルウェーの物価は高い。だから私たちもキャンプ場にするかって、ここに来たんだ。で、手紙の方は?」
「残念ですが1通だけ受け取れませんでした。大使館には5回も行ったんですけど、でも明日出発します。皆さんは?」
「私たちの夏休みもそろそろ終わりでね。明日はフェリーでハンブルクへ渡るんだ。最後にカジノでギャンブルをしようかって」
「カジノですか? ハンブルクは随分歩き回りましたが、カジノがあるなんて知りませんでした」
「カジノといってもホテルの中のカジノだからわからないかもしれないなぁ。でも結構有名だよハンブルクのカジノは、格式高いって。複数のホテルにあるはずだよ」
ラジカセから演歌が流れる中、アルコールなしでも色々と話はつきませんでした。「雨も降ってるし」ということで、結局この夜はロッジに泊めてもらうことになりました。
「カジノで一発当ててくださーい」
「はーい。じゃあねーッ」
早めのフェリーに乗るため早朝出発する彼らを見送ると、次はオランダへ向かう私が出発する番です。
「Hさん。ノルウェーからオランダへ渡ったらいいですよ。Kristiansand (クリスチャンサン)の港からオランダの Amsterdam (アムステルダム)行きのフェリーが出てます。僕もそれに乗りました」とW君から聞いていました。
オスロでは手紙を待って思いのほか長居になりました。[やっと出発できる] 正直な気持ちでした。それでも時間潰しのはずだったオスロ近郊の周遊ツアーには満足していました。