最後に寄り道: Taiwan(2)「コンヤ、オジョウチャンイカガ?」

ラッシュにかかりそうな時間でしたが、遅れることもなく1時間ちょっとで台北駅近くのバスターミナルへ到着しました。

[さてと、どこかで…… うん?]客待ちのタクシー運転手が一人私のもとに寄ってきました。運転手仲間のルールがあるのか、他の連中はお喋りしながらこちらを見ています。英語と日本語、混ざったやり取りが始まりました。

「お客さん、どこまで?」
「パン・アメリカンホテルだけど」
「ああ、パン・アメリカンホテルなら知ってるよ。乗ってきなよ」
「近いって、聞いたけど」
「歩くと時間かかるよ。荷物もたくさんあるじゃない」

運転士の言うとおり、私は輪行袋とフロントバッグを左右の肩に、振り分けバッグを両手に持っています。ホテルの場所はそれほど遠くないとは聞いていますが歩くとなると荷物が多くて大変です。そこで自転車を組み立てるつもりでいました。

「安くしとくよ」
「メーターじゃないの?」
「メーターより安いよ」
「で、いくらなの?」
「100元でいいよ」

[100元か、600円だよな。まあ、いいかッ]そこそこ交通量のある道をタクシーが走ったのはほんの数分、歩いても10分ほどの距離です。

「お客さん、そこがパン・アメリカンホテルです」
「ずいぶん近いね。100元て高くない? 安くしてよ」
「ダメダメ、約束ね」
「約束だって、高いよ」

しばらく料金交渉をしましたが、結局運転手に押し切られ100元払うことになりました。[自転車にすればよかった]誘われるがままに話にのったことを後悔していました。

気を取り直してホテルのチェックインです。ここで足元に置いたバッグの一つをタクシーの中に忘れたことに気がつきました。一番大事なテントと寝袋が入っています。まさかの忘れ物、高いタクシー代にカッカしていたようです。チェックインは後回し、フロントにことわりを入れると猛ダッシュでタクシーを追いかけますした。
100mほど走ったところで[あッ、アレだ。いたいた。アイツだ]運よくタクシーは信号待ちをしています。私がウィンドウを叩くと運転手が振り向きました。後部座席を指差しながら大声で「荷物、荷物!!」、なんとか無事荷物を回収することができました。

やはりパン・アメリカンホテルは名前負けしていました。海外ではよくあることです。私が泊まったのはホテルで一番安い部屋、それなりに設備は整っているように見えたのですが…… テレビが映りません。クーラーが動きません。最悪だったのは機械室が隣にあるため常に大きなモーター音がすることでした。[うるさいけどガマン、ガマン]だから安いのだと言い聞かせていました。

落ち着いたところで台湾一周の準備品をリストアップ[まずキャンピング・ガスだろ。それから食料に地図だろ。まだ泳げるかも知れないからゴム草履も買うかな。えーと、それから……]その時、突然テレビの電源が入ったのです。
[何だ、有線テレビなのか?]そこに写し出されたのは画質の粗いピンク映画でした。私はメモする手を止め、画面に見入っていました。しばらくすると電話のベルが、

「コンヤ、オジョウチャンイカガ?」
「えッ、何?」
「コンヤ、オジョウチャンイカガ?」

聞き覚えのある声の主は怪しい日本語を喋るフロントのオヤジです。

「俺にはそんな金ないから要らないよ」
「ソウカ、オジョウチャンイルナラデンワシテネ。イイカ?」
「オーケー。わかったよ」

その後もしばらくテレビの画面にピンク映画が流れていました。[イカガじゃないよ。さすがだね]それにしても私のような旅行者にも声がかかるとは驚きでした。

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